恋口の切りかた

ということは、
この女の人は、三年も前からこの屋敷にいたということなのだろうか。

「そんな話、俺は聞いてねえぞ!?」

円士郎が仰天した様子になって、

「私も存じませんでした」

冬馬が眉間に皺を作った。


霊子は怯えた顔で私たちを見上げて、

「三年前、城下の外れで行き倒れていたところ、通りかかった晴蔵様がお救い下さったのでござる」

と、説明した。

「里を自ら滅ぼして行くあてがないという拙者の話を聞くと、何故か大笑いされて、
『面白いから、今日から結城家に仕えよ』と」


「なに得体の知れねえ物拾ってんだ親父ィイイイ!?」


円士郎が江戸の方角を向いて絶叫した。

完全に物扱いだった。


「おちこぼれだったと拙者が言うと、『ならば修行致せ』と仰せになって、屋敷の一番奥の部屋に誰にも見つからぬように住むようお命じに……」


そう言って父上はあの部屋を封印して、家人には「開かずの間」ということにしていたらしい。

霊子はいつも見つからないように天井裏から出入りし、人目を恐れて天袋の中で寝ていたのだそうだ。


「こうして拙者はこの三年間、来る日も来る日も人に見つからぬよう修行に明け暮れたのでござる」

「修行なんだ、それ……」

私はボーゼンと呟いた。

「ところが、突然お屋敷に宗助兄さまが現れて……」

霊子はしくしくとまた泣き始めた。