恋口の切りかた


 【剣】

「里を滅ぼした隠密の人が、どうして私の部屋の天袋に入ってたの?」

部屋の天井から降ってきたのが生きた人間だとわかってとりあえず安心したものの、私の頭の中には巨大な疑問が浮かんできた。

「そ……そうだ! てめえ留玖の部屋で何してやがった!?」

幽霊よりも凄い超常現象を目にしたような顔で女の人を見下ろしていた円士郎が、我に返ったように怒鳴った。

すると、霊子という名の女の人は私たちに恨めしそうな目を向けて、

「この家の皆様が、拙者をあの部屋から追い出したからではござらんかぁ」

と、しくしくと泣きながら言った。

円士郎が首を傾げた。

「あの部屋?」

「お屋敷の一番奥の、開かずの間でござるっ」

霊子が叫んで、


「って、あの部屋──まさか、てめえの仕業か!?」


円士郎が怒りの形相になった。

霊子からまた、ヒィイイイ! という化け物じみた悲鳴が出てきた。


うう……人間だとわかっていても、この人なんかやだよう……コワイ。


「おい、言え。
霊子、貴様この俺を追ってきたのでなければ、何故結城家の屋敷にいる?」

宗助が鋭い目で睨んでそう尋ねると、霊子はオイオイと声を上げて泣いて、

「そもそも結城家に来たのは、兄さまよりも拙者が先なのにぃ」

と、驚愕の内容を口にした。


「里を失って行き倒れていた拙者は、三年前にここの御当主の晴蔵様に、くノ一として拾っていただいたのでござりますよぅ」


え……?


『えええええ──!?』


初めて聞いた事実に、円士郎と冬馬と私の上げた声が重なった。