恋口の切りかた

あの元国家老に対して宗助が言っていた恩義とは、このことだったらしい。

宗助がいかなる事情あって、仲間の元を去るなどという大胆な行動に走ったのかは不明だが。


「宗助兄さま……」と、霊子と呼ばれたくノ一は怯えきった視線で宗助を見上げて、初めて悲鳴以外の言葉らしい言葉を発した。

「にいさまァ?」

俺は思わず聞き返して、彼らを見比べる。

「兄妹などではない」と、宗助は俺の脳裏を過ぎった想像を否定して、

「そもそも俺たちは血の繋がりなどない孤児ばかり。
この霊子は俺の妹弟子に当たる者で、里にいる時によく面倒を見ていたというだけだ」

あくまで無感情に淡々と説明し、

宗助は冷たい金属のような目を霊子に向けた。


「今の俺はこの円士郎様にお仕えする身。
ここで殺されたり、連れ戻されたりするわけにはゆかない。

さて、喋ってもらおうか霊子。

貴様、どうやってここを嗅ぎつけた?
都築様と出会った時、俺は死んだように見せかけたつもりだったが……どのようにして俺が生きていることをつかんだ?

いかなる命を受けてここにいる? 言え」


氷のような声をかけて、宗助は握った女の髪にぐいっと力をかけた。

怯えた女の頭が仰け反らされる。


「貴様も、俺相手に黙秘など通用するとは思ってないだろうな」

ボソボソとした抑揚のない声音と能面のような無表情には、俺たち武士や、与一たち渡世人とも一線を画する、忍という種類の人間の静かな恐ろしさが潜んでいた。