恋口の切りかた

隠密の女ってことは──「くノ一」って奴か?

くノ一とは、忍の手先として下女などに扮して敵地に潜り込み、主に情報収拾を行う女のことである。


「どういうことですか、兄上! 宗助は──」

冬馬が声を上げて、俺の顔を見た。

そうか、こいつはまだ宗助の正体を知らないんだったな。

「ああ、宗助は表向きは中間だが、俺の忍だ」

俺は女の傍らに膝を突いたままの宗助を見下ろして言った。

「なんと……! そうでしたか」

冬馬は感心した様子になった。


「この女が里の命令でてめえを『追ってきた』ってのはどういう意味だ?」

聞き捨てならない不穏な響きだった。

尋ねた俺の顔を見上げて、宗助は、

「俺は昔、忍の里を抜けた身なんだ」

と、更に不穏当な発言をした。

「里を『抜けた』って──」

俺は、ぎょっとする。

つまりそれは──


「忍の里を裏切って離れた者ということだ」


いつもの淡々とした口調で、宗助は無表情に告白した。

俺も忍のことなど詳しくは知らないが、仲間の秘密を握った状態で共同体から離れたり裏切ったりした者を放置するほど甘い世界ではないことだけは容易に想像がつく。

そんなことをすれば当然──


「かつて俺は、里からの追っ手によって粛正されかけた」


まァ、そうなるわな。


「そこを都築様に救われ、生涯仕えることを決めたんだ」


宗助はそのように、俺と出会う前の自らの過去を語った。