恋口の切りかた


 【円】

宗助が、長い髪に隠れていた女の顔を上に向け、

蝋燭の明かりに浮かび上がった、その「水墨画から抜け出してきたような」どこか儚げな美女の顔を見て──


俺と与一は、思わず両側からずいっと、女の顔を覗き込んだ。


こ……この女って、ひょっとして──

予想外の場所に出現した、見覚えのある女の顔に俺はどういうことなのか混乱し、


「貴様──レイコか!?」


宗助の口をついてそんな言葉が出てきた。

知り合いか──?

珍しく驚いた様子で、能面のような顔に表情を作っている宗助と、
怯えた目をキョトキョトとせわしなく動かして周囲を見ている女とを
俺は見比べて、


「れ……霊魂……!? ふええ……」


留玖がそんな単語を口走って、再びしゃくり上げ始めた。

いや、それは違うだろ、留玖。


「『霊魂』ではありません。レイコです」

宗助が冷静なツッコミで訂正して、

「霊魂の『霊』の字に子と書いて、『霊子』、この者の名前です」

と丁寧に説明した。


「霊子」って書くのかよ!

いやまあ、幽霊画のようなこの女の雰囲気にはぴったりの気はするけど。


宗助は緊張した面持ちで刀の柄に手を置いている冬馬をちらっと見て、小さく溜息を吐いてから、女の髪を握る手に力を入れ、


「霊子、貴様──『里』の命でこの俺を追って来たか」


低く鋭い口調で、そんなことを言った。