恋口の切りかた

「何にもないぜ?」


手にした蝋燭で中を照らして調べながら、円士郎が言った。


そんな……!


私は障子につかまったまま首を伸ばして、真っ暗な闇だけがわだかまっている天袋の中を見た。


さっきは確かにそこに女の人の顔があったのに……!


背筋を冷たいものが這い上って来て、私は震えて──


「ん!?」と、

円士郎が突然、天井を見上げた。


その目が見る間に険しくなる。


やだ、なに?

私のほっぺたをぽろぽろ涙が伝い落ちた。


「こいつは──『正慶様』の右目の出番じゃなさそうだぜ?」


円士郎が言った途端──



ガタガタガタ! と天井を揺らして音がした。

「いやあ──っ!!」

私は悲鳴を上げた。


それはまるで「何か」が、四つんばいで「這いずり回っている」ような音で──


「与一! そこの薙刀を!」

部屋の襖の近くに立っていた尼僧に、円士郎が鋭く言った。

男の身長を持つ尼僧は、素早く襖の上に取り付けられていた薙刀に手を伸ばして、それを円士郎に放り投げ、

薙刀を手にした円士郎が、音を立てる天井を狙って刃を一突きした。


「この──くせ者がッ!」


え? くせ者──?


私の頭がその単語の意味を理解するよりも先に、


天井の板がぶち抜かれて、轟音とともに長い黒髪の女が部屋の中に降ってきた。