恋口の切りかた

「それ」が、声を上げた。


「ヒィアアアアアア──」


真っ赤な口から放たれた、血の凍るような凄まじい叫びに、


「いやあああああ──!!」


私も絶叫して、力の限りに天袋を閉めた。


日頃の鍛錬を生かして全速力で部屋を飛び出す。


なんで、なんで、なんでっ?

あんなものが、青白い女の人の顔が、私の部屋の天袋に入ってるのっ?


天袋というのは、
天井の近くに設けられた、引き戸のついた小さな収納空間で、

私は普段使っていなくて、中には何にも入れていなかった。


当然、あんなものも入れた覚えなんかないし、

そもそも女の人が──というか生きた人間が入るための空間ではない。


女の人が突然、自分の部屋の天袋に収まっていた状況も理由も、さっぱり想像できなかった。


考えられることは──


考えられることはたった一つしかない。


どうしてなのか、中間が「い、今円士郎様のお部屋に行っては駄目です!」などと焦った声で言ってきたけれど、私にはそんなことに構っていられる余裕なんて全くなくて、


「エン──っ!!」


私は円士郎の部屋の襖を両手で開け放った。