恋口の切りかた

「留玖? てめえ、留玖に何の用だ?」

「これはまた野暮なことを仰るね」

白い尼僧の顔は、真っ赤な唇を妖艶な笑みの形にして、

「人形斎さんに作ってもらった義眼が壊れちまって、こんな義眼じゃあ舞台に立てないのさ。しばらく暇だから、一緒に今度のホオズキ市にでも行かないかと今日は誘いに来たんですよ」

「な……な……」

俺は金魚屋が連れてきた赤い魚のようにパクパクと口を動かした。

「闇鴉の忠告はそのついでです」

「こっちがついでかよッ!」

俺は思わずツッコミを入れて、

「そうしたら、まさか円士郎様のお部屋に連れ込まれるとはねえ」

「……は?」

目を点にした俺の前で、与一は絶世の美女の尼僧の姿でしなを作り、
正体が男だとわかっていてもこっちの全身が総毛立つような目で俺を流し見た。

「あの中間さん、今頃お屋敷中に『円士郎様はお部屋に尼僧を連れ込んで比丘尼遊びの真っ最中だ』とふれ回ってるんじゃないですかねえ」

妖艶な尼僧のその言葉で、俺はようやく先刻の中間男のおかしな態度の意味を理解し──

──青くなった。

「ふざけんな! なんで俺が──」

ちなみに比丘尼遊びというのは……まあ、相手が尼さんの格好をしているというだけで、遊女を相手にするのと同じ行為をすることである。

「うふふ、兄上がそんな汚らわしい遊びに興じていると知ったら、おつるぎ様はどう思うでしょうかねえ」

俺を陥れてしてやったりという調子で、与一は完全に他人事のセリフを言い、

「……てめえ……その場合、自分が俺の相手役として道連れに誤解を受けるってこと、理解してんのか?」

俺は頬が痙攣を起こすのを感じつつこの尼僧を睨んで、

与一の笑いが、ヒキっと凍りついた。


ちょうどその時──


「エン──っ!!」


パァン、と威勢のいい音を立てて俺の部屋の障子が開け放たれ、

そこにはぷるぷる震えながら涙目でこちらを見つめる留玖の姿があって、


俺と与一は固まった。