恋口の切りかた

俺は白い尼僧の顔に向かってニヤッと笑いかけて、

「そうそう、あんたにはまだ、白蚕糸が留玖を危険な目に遭わせたことに対するけじめってやつをとってもらってなかったな」

「忘れてやしませんよ」

尼僧も赤い口元を吊り上げて笑った。

「何なりと」

「だったら、一つ提案なんだが──」


俺はかねてより頭の中にあった考えを、この町を裏で取り仕切る男に伝えた。


「どうだ?」

俺の話を聞いた与一は、じっと考えこむようにして黙った。

「あんたにとっちゃ、気にくわねえ話か」

「──いや」

しばしの後、
尼僧は、昨日聞いた侠客の低い美声で喉を震わせて言った。

「いいだろう。それがけじめになるならば、この二代目鵺の与一、きっちりツケは払わせてもらおうじゃないかい」

舞台であれば、よォ~、というかけ声とともに見栄でも切りそうな調子で与一は言い、

「それに、鈴乃森の与一の上客でもある他ならぬ円士郎様の頼みとあっちゃあ、断れねえってモンさ」

と、口の端で笑って、人気女形の声音で粋なセリフを寄越してきた。

「相変わらず話がわかるな」

俺も破顔して──


「さてと。そう言えば、おつるぎ様はどこでしょうねえ?」

与一が尼僧の声音に戻ってそんなことを言い出したので、たちまち表情が険しくなるのを感じた。