恋口の切りかた

俺は黄色い作り物の瞳と、黒い生きた瞳とをまじまじと見返した。

脳裏を、元盗賊の操り屋から以前に告げられた、結城家と盗賊「闇鴉」との因縁が過ぎった。


「まさか──それはうちの親父殿が昔、闇鴉の連中を壊滅寸前にまで追い込んだって話と関係があるのか?」


「ご存じならば話は早い」と、与一が首肯し、

「しかもそれだけではなくッてねえ」

「留玖の村を襲って、彼女に殺された『紅傘』の一味も闇鴉と関係があるってんだろ」

「おや、本当にお詳しいじゃないかえ……ああ、仙太──遊水さんにお聞きになったのですねえ」

与一は納得したような表情になって、「さらに」と付け加えた。


「今回の一件では、私の忠告を無視して秋山隼人様が一味の蜃蛟の伝九郎を斬り殺してしまわれた。

またしても『結城家の』若様の──部下の、お侍が」


俺は顔をしかめた。

「白輝血との繋がりを絶たれて、連中がこのまま大人しく引き下がるとは思えませんわえ」

じゃりじゃりする砂を口に含んだような、嫌な感覚がした。

「私のほうでも注意は致しますけれど、ようくご用心なさいな」

与一の言うとおり、確かによくもまあ同じ盗賊相手にこれでもかというほどの因縁を作ったものだった。

「は。武士が盗賊を怖がってどうするよ」

不敵に笑いつつも、油断はできないと俺は思った。

「わかった。気をつけておく。教えてくれたこと、礼を言うぜ」

俺が素直に感謝の言葉を口にすると、与一は左右で色の違う目をすがめて微笑んだ。

「ふふ、私のような者相手にもそうやって対等に物を仰るところが、私が円士郎様を気に入っている理由の一つですわねえ」

あの廃寺では意図的に目玉を落としていたらしく、
そう言う尼僧の顔からは、今日はポロリと黄色い義眼が飛び出すこともなかった。