恋口の切りかた

俺は眉をひそめる。

「忠告?」

「ええ。『闇鴉』のことでちょいと……気になることがありましてねえ」

尼僧の口から飛び出した賊の名前を聞いて、俺も表情を引き締めた。

「何なんだ、気になることって?」

「ここではちょっと……」

与一が中間に視線を送った。人払いしろということか。

「わかった、じゃあ話は俺の部屋で聞く」

俺は頷いて、中間男に「ちょっとこいつと話がある」と告げた。

「俺の部屋にはしばらく誰も近づけるな」

「ええっ!?」

中間は何故か狼狽したような大声を上げて、

「……あ、いえ! こ、これはご無礼を。承知致しました」

慌てて頷いた。

……なんだ?

俺は首を捻りながら、クスクスと女の声にしか聞こえない笑い方をする尼僧を伴って自室に戻って──


「それで?」

行灯の明かりが灯された部屋で尼僧姿の男と向かい合って座り、話を促した。

こうして落ち着いて眺めると、あの廃寺で目にした時と全く同じ血の気の感じられない白い顔は、芝居用の白塗りの化粧を施しているためのようだった。

「闇鴉がどうした?」

与一は軽く頷いて、

「蜃蛟の伝九郎を通じて、白輝血の兵五郎が闇鴉と手を組んでいたとお話しましたでしょう」

と、周囲に人がいなくても尼僧の声音のままで言った。

こういうのが役者魂というものか、それとも狸の与一とも異名を持つこの闇の世界の住人のこだわりなのか……。

「問題はその闇鴉の目的についてです」