恋口の切りかた


 【円】

屋敷に出入りのある小間物屋が広げている品を見て、留玖がカンザシを手に取るのを見て、

「俺が買ってやろうか」

そう言ったら、留玖は遠慮の言葉を口にした。

いじらしい態度に頬がゆるみそうになりながら、強引に押し切って買ってやろうとして──


カンザシの柄が目に入る。

牡丹の花の透かし細工だった。


ふと、ある考えが浮かんで、俺は小間物屋からそのカンザシを買い取り──


留玖がなんだか期待しているような、愛らしい瞳をじいっと俺に向けてきて、思わずその場でカンザシを艶やかな黒髪に刺してやりたくなったが、

衝動をグッとこらえ、俺はそれを懐にしまった。

そうしたら、留玖はあからさまに落胆した表情を浮かべて、


やべェ……!

どうしてなのか謎だが、今日の留玖はかわいさが倍増している気がするぞ。


俺は心臓を矢で射抜かれまくりながら、留玖が去った後に小間物屋を捕まえて、このカンザシを作った職人を聞き出した。

予想したとおり、これまたりつ殿の所に出入りのある馴染みの飾り職の作だった。


俺はさっそく、その飾り職を訪ねて町へと出かけて行き──



ちょっとした事件が起きたのはその日の夕刻、俺が町から戻ってきた時のことだった。