恋口の切りかた

えっ。


また心臓が大きな音を立てて、
私は嬉しくて
嬉しくて
すぐに頷きたかったのだけれど、


「い……いいよ、こんな高そうなの」


心と裏腹に私の口からはそんな遠慮の言葉が出てきて、手にしたカンザシを元に戻してしまった。

銀細工のカンザシは、牡丹の花の凝った透かし細工が入っていて、実際にとても高価そうだった。


円士郎は私とそのカンザシを見比べて、何事か考えこんでいるような素振りを見せてから、

やおら腕を伸ばしてその銀のカンザシを手にとって、

「こいつをくれ」

と、小間物屋に言った。


エン──?


ひょっとして、私に買ってくれたのかな。

私はどきどきしながら円士郎を見上げて、そうしたら円士郎はふいっと視線をそらして、


「お前はいらねーんだろ、これ」


ええ?


そのまま彼が買ったカンザシを懐にしまうのを見て、そんなぁ、と思った。


私はガックリして、素直に欲しいと言えば良かったと後悔したけれど後の祭りだった。

せっかく、好きな人に──円士郎に──カンザシを買ってもらえたかもしれないのに……。


なんで、「いい」なんて遠慮しちゃったんだよう、私のばか。

エンは今のカンザシをどうするんだろ。
自分で使うのかな。

今さら欲しいなんて言えないし……。


私はもうこれ以上髪飾りを見る気も失せて、しおしおと自分の部屋に戻った。