ただ、奇妙な謎が残った。


与一から場所を聞き、
鬼之介の長屋のあの美人後家が囚われているという町の外の廃屋に、直ちに宗助を向かわせたところ──

宗助の話では、

お玉という名の美人後家の姿は影も形もなく、
そこにはただ、兵五郎一家の手下の死体のみが残されていたのだと言う。


更に奇妙なことには、

鬼之介の長屋の大家に、戻ってきているかと娘のことを尋ねると──


返ってきたのは驚くべき言葉だった。


なんと白髪の大家は、
うちには息子だけでそんな娘などいないと、そう言うのである。


では、鬼之介の長屋に足繁く通い、俺や遊水も目にしていたあの水墨画のような美女は誰だったのか──。


まさか、幽霊ではあるまいし……。


怪談めいた顛末に、たちまち泣きそうになる留玖の横で、

俺も背筋がうすら寒くなるような、
ぞっとしない感覚に、肌が粟立つのを感じた。