「ふむ」
俺と平司を交互にながめて、親父殿はパシンと膝を打った。
「実はな、ちょうど今そのことで十兵衛とも話しておったのだ」
十兵衛というのは、結城家にいたころの虹庵の名前(*)だ。
親父殿は今でもときどき、虹庵をそう呼んでいる。
黙って話を聞いていた虹庵もうなずいて、
「もしも行き先がないなら、私が引き取っても良いかなと申し出ていたんだけどね。
開業したばかりで手が欲しいところだったし」
俺はほっとして、あらためてこの叔父を頼もしく思った。
虹庵のところならいつでも会えるし、安心だ。
「だがまあ、息子二人が頭を下げての願いだ。
この結城家で引き取っても良い。
いずれにしても、だ」
親父殿はごりごりとあごをかきながら、
「漣太郎、あの子供はもう起き上がって動けるか?」
「いや、まだ……話ができるくらいには回復したけど」
二人の反応に安心したせいか、気がゆるんで俺は普段のしゃべりになる。
「そうか。なら、動けるようになったら道場に連れてこい。
儂も一度その剣の腕を見てみたい。
どうするか決めるのはその後だ」
まあ、村には戻れんだろう、と親父殿は言って、俺が予想もしていなかったセリフを続けた。
「実はもう、村の連中とは話をつけてある。
こちらで身の振りを考えて構わんそうだ」
(*結城家にいたころの虹庵の名前:
通称のこと。この場合、幼名ではなく「十兵衛」は元服後の呼び名。「虹庵」は黒田姓を名乗り始めた後の号になる)
俺と平司を交互にながめて、親父殿はパシンと膝を打った。
「実はな、ちょうど今そのことで十兵衛とも話しておったのだ」
十兵衛というのは、結城家にいたころの虹庵の名前(*)だ。
親父殿は今でもときどき、虹庵をそう呼んでいる。
黙って話を聞いていた虹庵もうなずいて、
「もしも行き先がないなら、私が引き取っても良いかなと申し出ていたんだけどね。
開業したばかりで手が欲しいところだったし」
俺はほっとして、あらためてこの叔父を頼もしく思った。
虹庵のところならいつでも会えるし、安心だ。
「だがまあ、息子二人が頭を下げての願いだ。
この結城家で引き取っても良い。
いずれにしても、だ」
親父殿はごりごりとあごをかきながら、
「漣太郎、あの子供はもう起き上がって動けるか?」
「いや、まだ……話ができるくらいには回復したけど」
二人の反応に安心したせいか、気がゆるんで俺は普段のしゃべりになる。
「そうか。なら、動けるようになったら道場に連れてこい。
儂も一度その剣の腕を見てみたい。
どうするか決めるのはその後だ」
まあ、村には戻れんだろう、と親父殿は言って、俺が予想もしていなかったセリフを続けた。
「実はもう、村の連中とは話をつけてある。
こちらで身の振りを考えて構わんそうだ」
(*結城家にいたころの虹庵の名前:
通称のこと。この場合、幼名ではなく「十兵衛」は元服後の呼び名。「虹庵」は黒田姓を名乗り始めた後の号になる)



