恋口の切りかた

平司は部屋に入ってくると、俺の横に並んで頭を下げた。

「兄上の言うとおり、あの者の剣の腕が優れていることは私も以前目の当たりにしております」

「ほう! 平司、お前もあの子供と勝負したのか?」

「はい」


親父殿は身を乗り出した。


「それで、勝敗は?」

「私の負けでございました」


俺は少し意外な気がして、横目で平司の顔を見た。


「……てめえ、刀丸のこと嫌ってたんじゃねえのかよ」

「別に、嫌った覚えはございません」


ボソボソと小声でたずねると、平司はすました調子で答えた。


平司は顔を上げて、『ひた』と親父殿の顔を見据え、

「それに結城晴蔵様はお心の広い、心根のお優しいお方。
この真冬に、行き場のない子供を一人放り出すようなことはなさらぬと信じております。

どうか、その慈悲のお心をあの子供にもお与え下さいませ」


えええええ──!?


俺はたまげてしまった。


どうなってんだ?
平司って、こんなこと言うようないいやつだったか──!?

いや、自分の弟をこんな風にいうのもアレだが。

何と言うか、

頭の固いこいつはむしろ、こういう提案には率先して反対しそうな気がしていたのだが……。




この時、平司の胸中にどんな思いがあったのか──

またそんな平司の顔を見つめ返す親父殿が何を思っていたのか──

俺が知るのはまだ先のことである。