恋口の切りかた

 
 【漣】

今、刀丸を守ってやれるのは俺しかいない。

刀丸の寝ている部屋を後にしてすぐ、俺は家来に親父殿の居場所を聞いて、接客中だという座敷に向かった。

「父上!」

「漣太郎か、入れ」

部屋の前で声をかけるとそんな返事があって、

襖(ふすま)を開けて部屋に入ると
親父殿と一緒に中にいたのは虹庵で、二人で何か話していたようだった。

「ああ、私のことはどうぞお構いなく」と虹庵が微笑む。


「父上」

「なんだ? 何かたのみごとか?」

俺が居住まいを正して正面に座ると、親父殿は苦笑した。

「んん? 図星だろう。
お前がそういう態度の時は大抵そうだ。

いつもは親父親父と呼び捨てにしおるくせに、こういう時だけなァ~にが『父上』だ」

「うぐっ……」


さすがにこのあたりはバレバレだ。


「まあいい。何だ、言ってみろ。『父上』が聞いてやろう」


そんなありがたいお言葉を返してくる親父殿に向かって、


「父上! どうか刀丸をこのまま家に置いて下さい!」


俺は畳に手をついて懇願(こんがん)した。


「住み込みの奉公人としてなら、農民の子を住まわせることもできるはずです。

刀丸は剣の腕も立ちます!
結城家は武門の誉れ高き武道の家、このような者を置くことは結城家の利にこそなれ、決して損にはならぬと考えます」

「刀丸というのか。
あの子供が、昔お前が初めて敗北したという相手だな?」

「はい。このまま帰しても、刀丸にはもはや行くべきあてがありません。どうか!」

「うむ。まあ、そのへんの事情は儂も知っておる」


親父殿はそう言ってごりごりとあごひげをこすった。


「父上、私からもお願いします」

そう言ったのは、開け放したままの襖の向こうにいつの間にかいた平司だった。