恋口の切りかた

居所がつかめるまでは動けんな、と神崎帯刀が言った。

「町方を動かすのは留めておく。ここにいても仕方がない。何かわかったら番所に知らせろ」

自分の部下の失態があったとは言え、俺たちと違って動じた様子もなく帯刀はあくまで冷静だった。
志津摩を立たせ、

「結城家御当主がご不在の今、その代理とも言うべき次期当主殿がやめろと命じるのならば、日向志津摩の処分も事件の捜査が終わるまでは留め置く」

そう言って、項垂れたままの志津摩を伴い屋敷を後にしようとして、


去り際、


手にした提灯を掲げて遊水を照らした。


「貴様、その容姿──異国の者か?」

「私は紅毛の血を引く混血でして」

「混血だと? 見たところ極道者だな」


帯刀は鋭い目でじっと遊水を観察した。


「以前捕らえた賊から、変わった話を聞いたことがある。

異国の風貌の子供の盗賊の話だ。

鬼の子か天狗の子かと言うほど、恐ろしく頭のきれる子供で──各地を荒らし回ったにも関わらず、どこの国の事件の記録にも残らず、罪状すらついておらず、盗賊たちの間でのみ存在が知られていたという」

俺と隼人が顔を見合わせて、

「ほォ、面白い話ですね」

遊水が提灯に照らされた白い口元をニィッと吊り上げた。

「成長していれば、二十四か五か……ちょうど貴様くらいの年齢だ」

クククッと遊水が喉を震わせて笑った。

「私は遊水と申しまして、しがない金魚屋でございますよ」

「盗賊の名など知らん」

「お役人様は、お名前を何と申されましたかね?」

「……町方与力、神崎帯刀だ」

遊水は夜の闇にニヤニヤ笑いを浮かび上がらせた。

「成る程、成る程。神崎様も優秀な御仁のご様子ですねェ」

そう言う遊水にしばし探るような視線を向けた後、与力は同心見習いを伴って去っていった。