恋口の切りかた

「『つい』で済まされるかッ! 女一人守れずに、なに自分だけのうのうと戻ってきてやがるんだテメーは!?」

再び隼人が志津摩を殴りつけ、志津摩の体が庭に転がった。

「どうする気だ?」

申し訳ございません、申し訳ございませんと、庭の砂に頭をこすりつけてすすり泣き始めた志津摩に背を向けて、隼人は庭から俺を見上げた。

「武士の沽券(こけん)に関わる事態だ。公にできるようなことじゃねーけど、これ、御家老への報告は……」

「伊羽家にはさっき、すぐに内密の書状で伝えた」

何とか己を保ちながら俺は言って、

隼人が「くそ、だから俺は最初から、彼女が事件に関わるのには反対だったんだ」と毒づいて乱暴に頭をかいた。

「嫌なんだよ俺は! 女が酷い目に遭わされて、不幸になるのを見るのは」

隼人の言葉に、申し訳ございませんと土下座した志津摩からもう一度謝罪の声がして、

「話は聞いた」

聞き覚えのある与力の声が飛び込んできて見ると、何故か神崎帯刀と鬼之介が庭をこちらに歩いてくるところだった。

こんな時間に、何だ?

嫌な予感がするのを感じた。

そしてその予感通りに、

「ボクの長屋の大家の娘、お玉殿がさらわれて──文が」

鬼之介は完全に色を失った様子で、手にしていた書状を俺に見せた。