【円】
肝試しの夜、狐の屋台の正体を暴いた場に与力の神崎帯刀がいたのは、俺にとっては誤算で、町方連中にとってはおかげで面目を保つことができた幸運だった。
俺はあの手柄も全て番方のものにしたかったのだが、町方と番方の半分ずつの手柄という形になってしまった。
まさか鬼女さながらの格好で己の悪口を叫んでいた帰り道だったとは思いもしなかったのだろうが、町奉行の高津図書は衆目の面前で彼を褒めちぎり、おかげで奉行所内での扱いにも変化があったらしい。
そのせいなのか、あれから若い与力は俺や隼人に対してもやや好意的になっていた。
「そんな格好で今日は何の用だ?」
黒地に赤い蛇の目の傘を差して番所に現れた二日酔い気味の俺を迎え入れて、彼はそう尋ねてきた。
両袖に手を突っ込んで不機嫌そうに腕組みをしているが、まあ好意的な対応と呼べるだろう。
今日の俺は、適当に髪を結って女物の簪(かんざし)を差し、派手な柄物の着流しに一本差しの刀、黒塗りの下駄。
以前ならば、顔を見るなり追い返されていたところだ。
「帯刀、あんたに事件のことで一つ、伝えておこうと思ってな」
俺自身も、命を救われたこともあってこいつへの好感度は上がっていたので、あれから親しみを込めて「神崎」ではなく「帯刀」と呼んでいた。
ヒクヒクっとこめかみの辺りが動いた気もしたが、見なかったことにしておこう。
「ほう、何だ?」
「俺たちがぶち壊した狐の屋台、作った奴は捕まえたか?」
返ってくる答えのわかりきっている質問を、俺はわざとしてみた。
案の定、帯刀は眉間に深い皺を作った。



