恋口の切りかた

雨だから、というわけではないのだろうけれど、

今日は芝居の興行はお休みのようで、芝居小屋の中は閑散としていた。


「おや、おつるぎ様じゃないかい」

楽屋に顔を出すと、見知った人気女形の鈴乃森与一がいて、私はホッとした。

今日の与一は化粧気のない男の顔で、優美に着流しを着ていた。

「どうしたんだい、今日は……」

言いかけた与一は、私の後ろにいた志津摩の姿を認めてさっと表情を険しくした。

「今日はお休みだって言おうとしたんだけれど、どうやら芝居見物に来たってワケじゃあなさそうだ」

「白蚕糸さんに会わせて下さい」

ぷい、とそっぽを向く与一に、私は頼んだ。

「お願いします」

「また事件の話かい。しつこいね。だいたい、おつるぎ様はお役人じゃあないだろう」

与一は不機嫌そうに言って、袴に二本差しという私の姿を切れ長の目で眺めた。

「こんな格好して、物騒なお侍の真似事なんてやめちまいな」

それから、この女形は目を細めて、どこか妖艶な笑い方をして、


つうっと、

人差し指を私の顎の下に入れて首を撫でて、そのまま顎の下に人差し指をかけて私の顔を持ち上げた。


「こんな可愛い顔してるのにさ」


急に整った顔を寄せてそう囁かれて、私は頬が熱を帯びるのを感じた。


「兄上を喜ばせたいンなら、事件の調べものなんかするより、紅でもさしてちゃんと女の格好をしな」


「無礼者っ!」


志津摩が叫んで、私を引っ張って与一から離して、庇うように私と与一の間に立った。