恋口の切りかた

「今日は稽古ではなく役目で……その、円士郎様は……」

円士郎の名前を聞いて私は、頭上で雨粒を降らす空のように気分がどんよりするのを感じた。

「エンなら、さっき神崎さんに用があると言って出かけました。町方の番所だと思いますけど」

何とかそう答えると、志津摩はどうやら入れ違いになったらしくて、

「ええっ? 今、町の番所からここまで来たのに、そんな……参ったなあ」

と白い蛇の目傘の下で頭をかいた。

はあ、と彼も何やら私と同じようなどんよりした調子で溜息を吐いた。

「今日こそは、円士郎様や秋山様のお役に立とうと勇んで来たのに……俺って、何をやっても駄目だなあ……」

志津摩はしおしおと肩を落とした。

「せっかく、円士郎様の下で片瀬様の仇をとる機会を与えて戴いたのに、俺、結局これまで何の役にも立ってないし……」

どきっとした。
私もだ。何の役にも立っていない。

志津摩はそれでも、町方の捜査状況を知るのに重宝すると円士郎が前に零していたから、まるきり役に立っていないわけではないと思う。

でも、私は……

「志津摩さん」

私はある決意を秘めて、しょんぼりうつむく志津摩に声をかけた。