【円】
やべェ……!
「エンは、女の人が泣いてたら、『ただの友人』でも抱き合ったりするんだ……」
留玖がそんなことを言い出して、ずぶ濡れの頭から一気に血の気が引いた。
河原で、留玖と隼人が斬り結んでいるのを太鼓橋の上から遠目に見つけて、
何がどうなってそんな状況になったのかわからないまま、大急ぎで駆けつけて
俺に気づいて近寄ってきた隼人に、留玖に何しやがると言おうとしたら、
「アンタなあ、こんな可愛い娘を泣かせるような真似、するんじゃねーよ」
大体の事の経緯を知っている様子で、先に隼人から非難された。
隼人は何の意味があるのか首に髪結い紐をくくりつけていて、留玖と何をしていたのか問いただすと、
「兄上が他の女と抱き合ってるところを見て、忘れたいって泣いてる女の子に嫌なことを忘れさせてやってただけだけど?」
隼人はニヤッと笑って、聞きようによっては色男のセリフともとれる言葉を口にしながら、首の紐を引きちぎって捨てた。
もっとも、その「忘れさせてやってた」方法が真剣での斬り合いだとしたら、色気が皆無なのにも程があるという気はするが。
どうやらこちらの事情は筒抜けのようだった。
俺は、紫と白の花の中に立ち尽くして雨に打たれている少女に、大急ぎで近寄って、傘を差しかけて、
何とか誤解を解こうとしたのだが──
彼女の怒りを代弁するかのように、空を稲妻が走り、雷鳴が轟いた。
「仕方ねえだろ、放っておくわけにもいかなかったんだから」
留玖の言葉に対してそう返してしまって、なんで俺はこんな言い方しかできねーんだ、と頭を抱えそうになった。
「鳥英は、遊水助けてくれたり、月読について調べるのにも協力してくれたり、色々力になってくれてるの、留玖だってわかってるだろうが。
そんな彼女が泣いてて放っておけるかよ」
こんな説明には何の説得力もないと理解しつつも、俺は取り繕うように言葉を重ねた。
一瞬、彼女は雨宮の娘だ、だから親父殿のことで責任を感じたということもあるのだと説明しそうになったが──何とか踏み止まった。
すると、
留玖がバッと顔を上げて、真っ赤に泣きはらして充血した目で俺を睨んだ。



