恋口の切りかた

私はのろのろと刀を鞘に納めた。
隼人は雨の中に立って着物の袖を絞っている。

二人とも、もはや川の中で泳いだかのようなずぶ濡れの有様だった。


猫みたいな侍を見つめて、私は不安になった。


隼人は気づいているのだろうか。

今の剣は確かに凄くて、決まれば蜃蛟の伝九郎にだって勝てる気がした。
けれど──矛盾するように、予感がした。

何の恨みがあるのか全然わからないけれど、もしも──

もしもこのまま蜃蛟の伝九郎とやり合えば、隼人は死ぬのではないだろうかと。

私や円士郎や、そしておそらく蜃蛟の伝九郎にもあって、隼人に決定的に存在していないものが──ギリギリのやり取りの中で、隼人に敗北を、伝九郎に勝利をもたらすような気がした。


「私、隼人さんのお役に立てましたか──?」


隼人はきっと、その足りないものを補うために、私のこの無茶な勝負を受けてくれたのだと思った。

しかし、こうして終わってみれば──やはり、こんな勝負でそれは埋められない気がした。


「ええ、とても」

そう頷いてくれる隼人が何を考えているのかは、私にはわからなかった。


「俺は、どうですか?」

「え?」

「俺は、おつるぎ様の役に立てました?」


ぽかんとする私に苦笑が浮かんだ目を向けて、隼人は濡れたハナショウブの葉を手で軽く引っ張った。


「少しは気が晴れました?」