恋口の切りかた

「こいつ、昨日から一晩ずっと外にいて──」

俺は必死で、虹庵に刀丸のことを説明した。

刀丸の様子を見た虹庵はすぐに湯を沸かして体を温めたほうがいいと言って、俺の背中から刀丸を下ろし、

「大丈夫、死んだりはしないよ」

と、俺を安心させるように言った。

「この子は私が診ているから、キミは早く着替えて父君に新年の挨拶に行きなさい」

「え? けどよ……」

「キミがこの子のことを大事に思っているのはよくわかった。正月の朝から家を飛び出して行くほどのようだからね」

虹庵はおかしそうに、

「まあ、あんな性格の我が兄上はともかく──ご新造(*)や平司は私が来た時から大騒ぎしていて、それは見物(みもの)だったぞ?」

「う……」

俺は先ほどの平司の様子を思い出し──、

刀丸を虹庵に任せて、ここは素直に彼の言葉に従うことにした。



(*ご新造:ごしんぞう。武家の奥方。ここでは漣太郎の母親のこと。)