気配が、揺らぐ。

先ほどまで張りつめていた空気が、蜃気楼のように、風に溶けた。

「……待て……」

吉法師が、声を上げる暇もなく。

気づけば、少年の姿は、いずこかにかき消え――ただ、その存在したことを証すように、抜き身の短刀だけが、馬の背に置き去られていた。