席を立ってこのまま帰ろうかと思った。



その勇気を…あたしは持ってるはずだから…。



「あたしやっぱりっ…」

「失礼いたします、藤間様がお見えになりました」



ウソっ…。



もう…逃げられないのかも…。



下を向いてこみ上げてくる涙をひたすら我慢。



「お久しぶりです、会長」

「遅くなってすまないね」



父の知り合い…。



仕事の関係なんか全然知らない…。



顔を上げなきゃ…。



「お初にお目にかかります、藤間…雷と申します。社長のお噂はかねがね父より」



えっ…。



聞き慣れた低音にゆっくり顔を上げて目を疑った…。



雷って言った…。



でも氷流じゃなく…藤間?



『何がおこっても動揺するな』と言ったタイラさんの言葉の意味を理解した。



これはなに…?



どうして雷さんがメガネなんてかけてるのかわからないし、ここにいることがおかしなこと。



全然意味がわからない…。