翌週…。

 愛香が来てくれるかどうか、
 いや本音は幸子が来てくれるかどうか、
 不安に思いながら待ちわびた。
 また会えるという期待よりも、もう会えないかもという不安の方が遥かに大きかった。
 今まで生きてきた中で、これほど長く感じた一週間はなかった。
 その日がついにやって来た。

「史彦先生、こんにちは。」

 愛香だ、間違いなく愛香だ。
 そして、その横には、幸子。
 僕には、はじめて見た時より、遥かにまぶしく輝いて見えた。
 何故だろう。
 人は恋い焦がれる人を長らく待った時、
 嬉しさよりも、視覚的に「美しい」と脳が勝手に反応してしまうのか。
 実のところ、その時の状況をよく覚えていないが、
 運命的な出会いと自分自身に言い聞かせていたように記憶している。
 それから、週に一度、幸子と会える機会ができた。
 しかし、会えるだけで、何も起こらなかった。
 運命的な出会いをしたのだから、
 何かが起こってくれるものだと期待していたのだが…。
 僕は考えた。
 やはり幸せは自らの手でたぐり寄せなければと。
 思い切って、声をかけることにした。
 愛香がトイレに行っている間に、

「映画のチケットが二枚あるんですが、
よかったらご一緒してくれませんか。」

 少し間があいた…。

 2、3秒だったと思うが、すごく長く感じた。

「はい。」と、小さな声だったが、
 確かに「はい。」と聞き取れた。
 大声を上げて、「やった〜。」と叫びたかったが、

 気を落ち着かせ、

「ありがとうございます。」とだけ応えた。

 それから、二人の付き合いは始まった。