「私、榎坂さんの子供を妊娠したんです。
そして、中絶しました。
そのことが原因で、私はおかしくなりました。」

「へぇー、それは大変でしたね。
つらかったでしょ。」

 平田院長の言葉は、どこか他人事のようにも聞こえるが、患者にとっては、素直に何でも話しやすい医師だった。

 幸子は、淡々と話しをしていたが、僕にはあまりにもショックが大きすぎて、パニック状態になってしまった。

 恋人が、自分の知らない男の子供を身籠るなんて、全く想像していなかった。
 しかし、幸子がおかしくなった原因は、これだと確信した。