お茶だけで帰ればよかったが、
その後、二人はバーに飲みに行ってしまった。
 そのバーは、吾郎の行き付けの店のようだった。
 席につくなり

「マスター、いつものやつ。それと…、何がいい?」

「えぇっとー、じゃカシスオレンジを。」

 幸子はあまりお酒が強い方ではなかった。

「このお店には、よく来るんですか?」

「そうだね。来ると言えば、来るかな。ただ、最近は来ていないな。」

「ひとつ聞いていいですか?」

「何?」

「私の思い違いかもしれないんですけど、家近所ですよね。」

「そうだよ。俺のことわかってなかったの?」

「どっかで見たことのある人だとは思っていたんですが、なかなか思い出せなくて…。」

「俺、町内では結構有名人なんだけどな。
自治会の運動会や祭りの時はいつも目立ってて、
俺のことを知らない人はいないはずなんだけど。」

 幸子は思った。
 すごく子供っぽい人だと。
 少し母性本能をくすぐられた感じだった。

「すいません。私、あまりそのような行事には参加しない方なんで。」

「別に、謝らなくてもいいよ。何も悪いことはしてないんだから。」

「もうひとつ、質問していいですか?」

「いくつでもいいよ。」

「確か結婚してますよね。それに子供もいますよね。」

「うん、いるよ。」
 
 全く悪びれることもなく、吾郎は答えた。