彼は自分のトランペットを片手で構え 優しく息を吹き込む。 私の顔を見ながらラを聴かせてくれた。 『この音だぞ』 教えてくれてる。 いつも意地悪なことばかり言ってるのに トランペットのことになると優しいんだ……。 「一緒に吹いてみ?」 私は彼の音を聴きながら頭にラをイメージして吹いた。 耳を塞ぎたくなるような騒がしい視聴覚室の中で 重なる視線 重なる音 なんだか二人だけの空間にいるようだった。