予鈴が鳴り響くと同時に、相原マリが教室に入ってきた。
マリは愛華と亜美と仲が良く、いつも三人で行動している。

ぱっちりとした大きな二重の目、毛先にゆるいパーマがかかっていて、マリはふんわりとした雰囲気を持っており、男子から人気がある。
肌が雪のように白く、外国のお姫様みたい、と奈々子はいつも思っていた。

マリは、まっさきに愛華たちの元へ――いつもなら行くはずなのだが、今日は違い、窓側にある自分の席に、座った。

「おいっ、お前ら、さっさと席につけ! いつまでも夏休み気分でいるなよ」

担任の春山が怒鳴りながら、教室に入ってきた。
春山は四十手前の体育教師で、言葉遣いが乱暴なため、みんなから嫌われていた。顔が猿っぽいので猿山と陰で呼ばれている。

みんなだらだらと自分の席に座り、朝のホームルームが始まった。

ホームルームが終わり、奈々子はトイレへ向かっていた。もちろん一人だ。
とぼとぼと廊下を歩いていた奈々子の心臓が飛び跳ねるように高鳴った。

隣のクラスの近藤零(レイ)が、前から歩いてきたのだ。
高い身長に、さらさらの絹糸のような髪、切れ長の目をした整った顔――まるで童話の王子様のようだ。