次の瞬間、飲みかけのイチゴオレの紙パックが、七海に思いっきりぶつけられた。
爆笑が起きる。

「やばっ、メガネがピンクになってる」

「マジきも~い」

弁当も制服も生ぬるいイチゴオレでびしゃびしゃだ。だけど、七海の心には、きもいという笑い声のほうが心に深く突き刺さった。血が溢れ続けていたそこは、もう麻痺してしまったと思っていたけど、やっぱり痛い。息ができないくらい。

七海の姿を見て、笑うクラスメイトもいれば、同情的な視線を向けてくる者もいる。しかし、誰も救いの手を差し伸べてはくれない。
七海は弁当箱を抱きかかえるようにして、教室から逃げだした。

いじめが始まったのは、些細なことだった。先ほど紙パックをぶつけてきた百恵が片思いしている不良っぽい男子、佐々木と七海が会話してしまったことが原因だった。
会話と言っても、隣の席の佐々木は、いつも筆記用具を忘れていて、七海に貸してくれ、と言ってくるだけだった。

それが一日に何度も繰り返されるので、七海は使っていないシャーペンと消しゴムを佐々木にあげた。それが気に食わなかったらしい。

「ブスのくせに男好き」

そんな噂を流され、じょじょに先ほどのような物理的、心理的ないじめが増えていて、七海は疲れきっていた。