さえは、教壇に置いていた山形の大きな筆箱を漁りはじめた。

「これおいしそー」

取り出したのは彫刻刀のセットだった。

「さ、さえちゃ……だめ、だめ、やめて」

奈々子の懇願する声はまったく届いておらず、さえは彫刻刀を一本手にして、あーん、と口を開けた。
スティックのお菓子でも食べるように口へ運ぶ。
ガリッボリッガリリッ、と彫刻刀の刃先が砕ける音がした。

「ひっ――」

奈々子の腰は完全にぬけてしまった。

さえの口から滝のように血が流れ落ちている。
刃先で口の中がズタズタに切れたのだ。

それでもさえは、彫刻刀を次々に口へ運んだ。