「暴食。底なしの胃を満たすため、あなたはありとあらゆる物をつめこむだろう……」

さえは、まるでなにかに取り憑かれたように、すらすらと言う。

奈々子は持ってきていた数学のノートをめくった。
暴食――これも七つの大罪のひとつだ。

「それから、おなかがへってしかたないの。いえのものぜんぶたべて、おかーさんがないてた」

さえは、また幼稚園児のような口調に戻り、黒板消しを食べた。もう綿の部分はなくなってしまった。

「たりない……まだたりない!」

「さえ、もうやめて! 胃が破裂しちゃうよ」

立ちあがったさえのうでを、千尋がつかむ。
だが、さえは肩を勢いよく押して、千尋を床に倒した。

「――っ」

千尋が頭から倒れたので、奈々子は慌てて駆け寄った。

「千尋ちゃん、大丈夫!?」

返答はなかった。頭を打ったため、気を失っているらしい。