「ふう」

俺は背伸びをすると、腕時計で時間を確認した

深夜一時をとうに過ぎている

「ねむっ」

欠伸をしながら席を立つと、俺は執務室を出た

乙葉はもう寝ただろうか?

俺は、静かな廊下を歩いて、俺たちの部屋に戻った

鍵がかかっていたら、部屋に入らずに、執務室で寝ればいい

鍵が開いていたら、乙葉の寝顔を見てから、ベッドで横になろう…と俺は心に決めた

乙葉が起きる前に、俺が起きて執事の支度をしてしまえば、乙葉には気付かれない

そっとドアのぶに手をかける

鍵はかかっておらず、ゆっくりとドアが開いた

部屋の電気は落ちている

だがベッドに置いてある電気スタンドが煌々と光っていた

俺は、ベッドに近づくと、膝を床について乙葉の顔を覗き込んだ

「…泣いたな」

目頭と頬に、涙の痕が残っていた

俺はそっと乙葉の頬に触れると、優しく撫でた

「泣くぐらいなら、強がるなよな」

「元……」

乙葉が俺の手を握りしめて、寝言を呟いた

「なんだよ」

「行かないで…一人に、しないで」

ズズッと、乙葉が鼻を啜った

「行かねえよ」

俺は、乙葉の手にキスをした

そもそも浮気をしたって、感違いをして『離婚をする』って言いだした乙葉のせいだろ?

…たくっ、泣いて後悔するくらいなら、俺の言葉をきちんと聞けよな