スロー・ステップ・スロー

「顔が見たかったのよ」



振り返ることなく、明るい声だけを残していく。


けれどもドアノブに手をかける際、何かを思い出したかのように振り返った。



「その汚れたシャツは、着替えてきてね」



自分の胸元に指を当て、くすりと笑う。



ヴァルターは目線だけでそれを確認し、今日初めて戸惑いの表情を見せた。



「かしこまりました」



和んだ空気と、ちょっとした達成感を感じながらツィツェーリエが破顔する。



顔を見せないように、しっかりと頭を下げたヴァルターを眺めて、ツィツェーリエはドアノブに手をかけた。