スロー・ステップ・スロー

しかしその質問は頬笑み返しで受け流されてしまった。


ヴァルターはソファの斜め前に立ったまま、アンダーリムの眼鏡のブリッジを抑えるのみ。



微笑んでいるようで感情の読み取れないその眼鏡の奥の瞳が何を考えているかはツィツェーリエにもわからない。



ふう、と小さく溜め息をつきソファから立ち上がる。



「ねえ、ヴァルター」



ゆるいウェーブのかかった黒髪を揺らして、ツィツェーリエはヴァルターの元へと歩み寄る。



「貴方はとっても忠実な執事だけれど、今どき珍しいぐらい」



十五センチほど上の瞳を見つめ上げ、薄桃色の唇を動かす。



「私がセックスしましょう、って誘ったらどうするのかしら？」



ヴァルターの身体に触れることなく、一定の距離を保ったまま。


それでもお互い目を逸らすことはない。



柔らかな空気が、二人の間に漂っていた。