「遠慮しなくてもいいのに」



佇まいを整えた男の表情には焦りも、気まずさも感じられない。



「最近彼女が問題になっておりまして。少々注意をしていただけですから」



声音ですら、それはいつもツィツェーリエが聞くものと変わらなかった。


低く、落ち着いていて、丁寧な発音。



「問題?」



無駄な物のない、シンプルな部屋。


唯一目につく写真立てをツィツェーリエは何気なく手に取る。


それも彼自身の家族のものとツィツェーリエ、そして彼女の家族のものぐらいしかない。



「いえ……職場内のことですから」



まるで教えたくないかのような言い草に、ツィツェーリエの口元が緩む。



「そう。でもメイドに注意をするのは、ハウスキーパーの仕事であって、バトラーの貴方の仕事ではないんじゃない、ヴァルター?」



新しいものが増えているわけではない写真立てをチェストの上に戻し、男の顔を見ながらそう口にする。