スロー・ステップ・スロー

「貴方の前でだけよ、愚痴を言うのも。ヴァルター」



オレンジ色のライトに照らされた玄関先に車が停まる。



「承知しております」



それだけ返ってくると、ヴァルターは車を降り、流れるような動きでツィツェーリエの横へとやってくる。



静かに開けられるドア、差し出される白い手袋の手。



「もう一曲踊ろうかしら、先生?」



自分の手を乗せて、ツィツェーリエはゆっくりと足を出す。



「もう夜も更けていますから」



「あら、いつまで子ども扱いするつもり?」



玄関先の使用人たちが頭を下げる中、手を引かれて立ち上がった。



ヴァルターの横に立ち、柔らかな笑みを浮かべる。



後部座席に漆黒の手袋を残して。





Tanz ende.