スロー・ステップ・スロー

「良かったら一曲踊らないかい?」



血色の良い唇が、誘いではなく命令の言葉を下す。



既にたくさんの注目を集めているし、パーティの主催者の顔を潰すわけにはいかない。



背後に存在感を出すことなく控えていたヴァルターに視線だけ送れば、無言で返事が返ってくる。



銀フレームの眼鏡の奥の伏せ目がちな表情に、ツィツェーリエは思わず溜め息をつきたくなるが、息を止めてルートヴィヒに笑顔を向けた。



「それではフロイライン、こちらへ」



上機嫌、というよりも当然、といった表情を浮かべたルートヴィヒがそう言いながら左手をツィツェーリエの目の前に差し出してくる。



一瞬間を置いて、ツィツェーリエは外したままだった手袋をはめなおして、自分の右手をその上へと乗せた。