スロー・ステップ・スロー

「こんばんは、ルートヴィヒ男爵」



まるで練習したかのような、にっこりとした微笑みを見せて挨拶をすると、ルートヴィヒと呼ばれた青年は豪快に笑った。



「まだ爵位は継いでないんだし、君はいつものようにルートって呼んでくれていいんだ」



いつものように、を強調して周りにもわざと聞こえるように声を上げる。



「君が来てくれて嬉しいよ。いいパーティだろう?」



彼はこのパーティの主催者、いやでも人目を引いてしまう。


その上これ見よがしに会話を進めるのだから、ツィツェーリエも注目される。



それでもツィツェーリエは、笑顔を絶やすことはない。



「ええ、動物愛護はいいことだし、この古城もとっても素敵よ」



明るい声で言いながらルートヴィヒの足元に目をやれば、クロコダイルの革靴。



その視線には気付かないルートヴィヒは褒められたことに気をよくしたのか、口角を上げる。


そしてその瞳は真っ直ぐツィツェーリエを見つめていた。