井戸から木桶で水をくみ上げて顔を洗い終え、爽快感を得る。

「ふう」

布で顔を拭いてから、深層意識の事を回想する。

「俺にはいい事がある、か」

今も俺の中には母さんがいるのだろう。

身体を操る事は出来ないにしろ、不気味な話である。

「あいつは知ってるのだろうか」

あまり思い出したくない顔を浮かべてしまう。

「ち、朝から胸糞わりいぜ」

「朝、気分の良いもの」

傍には、以前とは別の民族衣服を着たウッドが立っていた。

「何、すぐに収まるさ。それより、ウッドも顔を洗いに着たのか?」

「違う。朝食のための水」

「朝飯ね」

そういえば、ウッドには年頃の妹がいるという話だったな。

「飯はウッドが用意しているのか?」

「ああ」

ウッドは井戸の桶から自前の桶へと水を移し変えていく。

「へえ、妹さんは幸せだな」

「幸せ、違う」

「何?」

ウッドは陰りのある顔に変化している。

「俺、畑仕事とご飯を作るくらいしか出来ない」

「十分だろ」

「お前、解ってない。だから、簡単に言える」

こちらに顔を向けていないので表情は解らないが、声には少し苛立ちが篭っていた。

「まあ、お前の言うとおりかもな」

ウッドの妹に何か問題があるとするならば、余計な事を言ったところで何の慰めにもならない。

「今度、俺にも朝飯食わせてくれよ。ティアの飯だと腹を壊してしまいそうなんだよ」

「気が向けば」

ウッドは水を汲み終えて、自前の桶を持って去っていった。