「母さんがあいつの事を愛してるってのならそれでいい。この世に産んでくれた事や口座に入金してた事にありがたがるのも当然だ。だけど、親は産み落とした後に金を渡せばそれで認められる存在じゃねえだろ!」

「丞」

母さんは少しだけ悲しい顔をしている。

「悪い。似てるって言われたから言っちまった」

「苦労をした丞を責めはしないでしょう」

「俺は皆に迷惑をかけてきたんだ。死んだ美咲の苦痛に比べたら、俺の苦労なんてちっぽけなもんでしかねえよ」

救えなかった事に関してはあいつと一緒なのかもしれない。

「はは、大層な事言って、考えてみたら郁乃母さんの言うとおりだったかもしれねえ」

「丞、塞翁が馬でしょう」

「おいおい、最悪な出来事を覆すような良い事があるとでも言うのかよ?」

「丞ならあるでしょう」

何を根拠に言ってるのかはわからない。

だけど、郁乃母さんが微笑を浮かべている事で、信じられるかもと思える。

「全く、都合の良い脳みそだぜ」

決して、美咲を殺した事は許される事じゃない。

だけど、いつまでもグダグダ言うと、誰かが不幸になる可能性だってある。

俺の接し方によって誰かが心を痛める事だって、不幸の内の一つだ。

「郁乃母さん、出会えてよかったよ」

「丞、世界はお前を見捨てはしないでしょう」

段々、視界がぐらついてくる。

「だから、諦めはよくないでしょう」

「郁乃母さん、心配しなくても、俺は、何とかやるさ」

スポットが消え、全てが暗闇に落とされる。