ティアをベッドに運んで、布団をかけている。

もう寝る時間だったらしく、気絶したまま起きてはこなかった。

「俺も寝るか」

ティアの傍で寝ると恐ろしい事態に巻き込まれそうな予感がしたので、リビングの固い床で寝る事にした。

上にかける布団はないが、寒くないので風邪は引かないだろう。

「あー、後一週間と6日」

今日一日でも十分に疲労を負っていたらしく、自然と眠りにつく事となった。


夢なのか、意識の奥底なのか。

現実味を帯びていない暗黒世界。

唯一ある電灯の光りのスポットの下、ベンチに座っている俺。

「夢でいいのか?」

夢の中でも意識のある俺は、眠っている事になるのだろうか。

「でも、何でいきなり?」

驚く事無く冷静でいられる自分の心境は変わったとしか思えない。

「うーむ」

不思議な現象が起こった事には意味があるのではないだろうか。

「丞」

誰かの声が遠くから聞こえてくるが、気配が近づいてきているようだ。

「誰だ?」

暗闇から光に出てきた人に驚きを隠せなかった。

「久々でしょう」

「郁乃、母さん」

自分とは別の精神である郁乃母さんが体の中に存在している。

それも、俺が生きていた当時よりも若く、赤い民族衣装で身を包んでいた。

ありえる事なのか?

夢とは記憶の整理だと聞いた事があるが、今の母さんは記憶ではない感じがする。

リアルタイムで傍にいるような感覚。

「何で、郁乃母さんが、俺の中にいるんだよ?」

郁乃母さんは妖魔だ。

意識の中に介入する事は出来ると思う。

だけど、死んだはずだぞ。