「やれやれ」

隠れ家は複雑な道を経て、街の端に作った。

家といっても粗末な物で、木やダンボールで組み合わせて風除け、雨避けだけを目的とした作りになっている。

狭くもなければ、広くもない。

幸い、自分の腕は器用だったらしく、今も潰れずに残っている。

風呂やトイレなどという物はない。

だけど、近場に機能している水道が繋がっているようで、水の補給が出来る。

便利な物があるのにも関わらず、誰も気付いていない。

隠れ家は私が案内しなければ、たどり着くことは不可能かと思う。

隠れ家にいると、日頃の恐怖から少しだけ解放され、安心感に満たさる。

街は狂気に満ちた場所で、常に感覚を鋭敏にさせておかなければならない。

その反動なのか、我が家に帰ると疲れを酷く感じてしまう。

ちなみに、誰かに探られる前の家の中から辞書や本を拝借して、漢字や言葉を得た。

見つけることが出来なかったら、私は文字を読むことは愚か、ろくな言葉を使えなかっただろう。

隠れ家で休んでいる内に辞書や本を読んで言葉を覚えた。

ひらがな程度なら解っていたので、読み方や意味さえ解ればこちらのものだ。

不完全とはいえ、最初の頃より対話できるはず。

でも、地獄にいる奴等は話が通じないから意味がない。

外に出ることが出来たのならば、役に立つはずだ。

「傷薬はここか」

傷を癒す道具ぐらいは揃えておかなければ、死は近づくばかり。

傷から菌が入って病に陥って死んだという事例もあるから、気をつけなければならない。

手当ては雑なものだけど、死ぬよりマシ。

痛みは残っているが、消毒は済んだ。

明日も物資を探しに街や家に忍びこまなければならない。

派閥が物資を独占しているから残っている物は知れているが、嫌でもやらなければ抜け出す事が出来ない。

もしかすると、見つかっていない巨額の物がどこかにあるかもしれないんだ。

諦めるわけにはいかない。