「おや、夜になっていますね」

私は職員室の机で笹原冬狐さんに向かい合いながらお話しています。

私のお話に興味があると言ってくれましたので、長々とお話してしまいましたよ。

「赤城先生、そこはまだ存在するのですか?」

「ええ、過酷なワンダーランドとして、同じ仕組みで残っているようですよ」

「そうですか」

凛々しい顔をしながら、彼女は考え込んでいますね。

これは、結婚を迫る男性が現れてもおかしくはありません。

「冬狐、帰るわよ」

職員室に入ってきたのは白衣の眼鏡の女性、秋野湊さんですね。

「今、あなたのお話をしていたんですよ。秋野さん」

「あら、赤城先生が私のお話を?光栄ね」

荷物の用意をしながら、私を見ます。

「それで、気になった事がありましてね」

「何かしら?」

「廃墟でのスカウトはまだやっているのですか?」

「まだ覚えていたの。懐かしいわね」

荷物を用意していた手を止めて、暖房要らずの目つきが冷房要らずの目つきに変わりました。

「今年はいい子がいなかったわ」

「湊、あんたの実家って、里の中でも権力のあった方よね」

考え込んでいた笹原さんが顔を上げます。

「そうそう、使える物は使っておかないと、損じゃない」

「あんた、暇な事してるわね」

「暇な内にやるべき事をやっておかなくちゃならないのよ。それより、冬狐、足に根が生えない内に帰りましょうよ」

「そうね。今日は、色々とお話が聞けてよかったですよ。ありがとうございます」

笹原さんと秋野さんは、職員室から出て行きました。

秋野さんの背後には、熱烈なファンのように彼の気配も感じますね。

「さて、私も摩耶さんのめざしでも食べるために帰りましょうか」

摩耶さんの手料理でスタミナを付けなければ、明日を乗り切る事は出来ませんからね。