だが、暮らしとしては最下層の人間よりは遥かに良いといえる。

「マヤの容態は?」

あれだけの深手だとすれば、治療したとしてもまだ時間はかかるかもしれない。

「幼女の身体程、面白くない物はないアル」

「どういう事だ?」

まさか、失敗したとでもいうのか。

「クセっ気のない男ばりに難なく進んだアル」

「そうか。良かった」

安堵のため息。

初めて、他人のために息を吐いた。

出会って間もない少女の存在が、大きくなっているように思える。

「どこに居る?」

「教えてやってもいいアルが、味見もさせるアル」

相変わらず、何を言っているのかは考えたくない。

「治療してくれた事には感謝する」

私は傍にかけてあった、汚れた上着を着ようとする。

「まあ、待てアル」

「あなたのやる事には付き合うつもりは、ないのだが?」

またおかしな事を言うのではないかという、面倒くささがあった。

「ナニ丸出しで上半身だけ服を着てるくらい不恰好アル。これを持っていくアルよ」

広目から投げられたのは、黒い洋服。

本で見た事がある。

大人になった人間が、着用して仕事をするスーツという服だ。

「何故、ここまでする?」

私には解らない。

広目に何かをしたわけではなく、一方的に恩恵を受けているからだ。

「アチシはクセっ気のある奴は嫌いじゃないアル」

「しかし」

「初夜に突入するくらい、素直に喜べアル」