三十分経った頃だろうか、チェリーの眼が開いた。

チェリーは滝のように涙を流しながら、俺に抱きつく。

「怖い、怖いよ、お兄ちゃん」

きっと、夢でとんでもない事に遭遇したに違いない。

声を押し殺して泣いているチェリーの頭を撫でてやる。

「俺が、お前の傍にいるから」

チェリーの中に恐怖を作ったのは俺だ。

大丈夫などという台詞なんか使いたくはない。

そんな保証はないし、何よりも無責任だ。

そして、これから更に怖い思いをするかもしれない。

出来る事なんて限られている。

その中で、如何に最善を尽くすかが問題になってくるはずだ。

「もう少し、ここにいるか?」

泣くのを止めたチェリーは無言で首だけを横に振った。

「そうか」

俺はティアの籠の果物をチェリーに手渡す。

「俺もさっきティアに貰ったんだけど、美味しいぞ」

本当は味なんて解らない。

だけど、少しでもいいから、元気になって貰いたかった。

チェリーは小さな口で一口かじり、微笑んだ。

「美味しい」

「そうか」

「ありがとう」

「礼はティアに言うんだ。取ってきたのは、ティアだからな」

「ティア姉ちゃん、ありがとう」

チェリーは感謝の度合いを示すが如く、ティアに抱きついた。

後は、俺達が越えるべき場所を越えるだけだ。