起きれば、不気味な程に静寂な真夜中へと移行していた。

隣のチェリーは寝息を立てて、俺の肩に頭を乗せている。

可愛らしい寝顔を浮かべているチェリーを起こさないように、ゆっくりと木にもたれかけさせる。

「ティア?」

どこを見てもティアの姿がない。

しかし、探す必要はないようだ。

草の音をさせずに、壁の方角とは別の方向からティアは木の籠を咥えながら戻ってきた。

「はあ、心配したぜ」

長時間離れるわけもないだろうから、近くを探ってきたのか。

ティアは、籠を口から離す。

「ブヒブヒ」

籠の中から物を一つ取り出して、俺に放り投げる。

受け取ると、何色かは解らないが、楕円形であり、リンゴ程度の大きさで艶々している。

果物である事は確かだ。

しかし、二足歩行もそうだが、蹄で物を掴むなんて器用な奴だ。

「くれるのか?」

「ブヒ」

散々ダメージを当たえたのにも関わらず、どうして人に尽くすのか。

見張りを途中で抜け出したのは問題だが、実を取ってきたのは俺達のためなのだから、怒るに怒れない。

最初の時に豚の姿で出会っていたのなら、ツッコミなど入れる事なく好印象だったに違いない。

「ありがとな」

感謝しながらも、美味しそうな実をかじってみる。

「ん?」

おかしいと思いながら、もう一口かじってみる。

「くそ」

自分の中で起こった衝撃によって、食べ差しの果物を地面へ落とした。